下ノ廊下
 黒部渓谷のなかの欅平から黒部ダムまでの区間を「下の廊下」といい、その区間には電源開発のための移動用として、絶壁をくりぬいた歩道が作られている。
 下の廊下のうち、欅平から仙人谷ダムまでの約12kmの歩道を「水平歩道」といい、大正時代に東洋アルミナムによって切り開かれた。また、仙人谷ダムから黒部ダムまでの約17kmの歩道を「日電歩道」といい、大正から昭和にかけて日本電力によって切り開かれている。
 この歩道、その名の通り高度差はあまりなくほぼ水平なのだが、断崖絶壁をくりぬいて作ったものなので幅は広くても1m。そして谷側へ1歩足を踏み外すと、高さ数百m下までダイブできてしまうという難ルートである。
 毎年冬になると、豪雪地帯である黒部渓谷は積雪により一般人の入ることのできない厳しい環境となる。そしてその雪による雪崩や落石の影響で、毎年歩道は多くの損傷を受ける。
 関西電力が黒部ダムを建設する際の条件として、この歩道を毎年整備することが義務付けられたため、春になり雪が溶けると歩道の整備が始められる。しかし、整備には多くの時間と労力を要するために、例年水平歩道の開通は7月下旬、日電歩道の開通は9月下旬となっている。そして、10月末には早くも黒部渓谷に初雪が降るため、歩道は閉鎖されることとなる。
 1年のうち数ヶ月間しか通行できず1歩間違えれば命を失うこともある、「下の廊下」はそんな場所である。

 さて、その下の廊下の中間地点に、関西電力の仙人谷ダムがある。
このダムに行くには、ルートは4つしかない。1番簡単に行けるのは、関西電力のトロッコ列車で高熱隧道を突っ切るルートである。しかし一般人がそのルートで行くためには、毎回高倍率抽選となる関電主催の黒部ルート見学会に参加するしかない。残り3つは完全な登山ルートで、1つは黒部ダムから日電歩道を下ってくるルート、1つは欅平から水平歩道を登ってくるルート、そして1番キツいのが剱岳から仙人池を経由して仙人谷に降りてくるルートである。